LGBTを扱った絵本『王さまと王さま』
オランダで生まれた、LGBTをテーマにした絵本。
LGBTとはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字をとったもの。
この『王さまと王さま』は、男性同士が結ばれる話になっている。
お姫様と王子様が結ばれる話は数あるものの、お姫様とお姫様、王子様と王子様が結ばれる話はそうない。これまで異性愛が当たり前だとされてきた情勢ならなおさらであろう。
そんな中で、同性同士が結ばれる絵本があってもいいんじゃないかと発表されたのが『王さまと王さま』である。
性の多様化がようやく認められつつある昨今だが、まだまだ十分とはいえない。LGBTという言葉すら、最近になってよく聞くようになったぐらいだ。性的マイノリティが生きやすい世界を作っていくには、残念ながらまだまだ時間と努力が必要に思える。
訳者あとがきによれば、性の多様性への理解は、子どもたちが幼い頃から深めていくべきものだと述べている。
性的マイノリティへの偏見や差別をなくしていくには、これからの未来を担う子どもたちの理解がなによりも必要となるだろう。そうやって少しずつにはなってしまうが、性的マイノリティの人々たちも生きやすい世界を築いていくしかない。
訳者のあとがきには、残念ながら日本には、性的マイノリティを学ぶ教材が少ないと書かれている。残念ながら確かにそうだろう。
今までは異性愛が当然とされ、性的マイノリティに対する認知度も低かった。
これは差別や偏見というよりは、“関心がない”という状況が如実に現れ出たものではないかと思う。むろん、そこに差別や偏見がまるでないとはいわない。今まさに私たちは、知るべきなのではないか、という時代の入り口にたっているように思える。だからこその、幼いうちからの性の多様性について触れることの重要性が説かれるのだ。
訳者は、この『王さまと王さま』がひとつの教材になればと願っている。
この絵本を読むことで、同性同士が結ばれることもあるということや、同性を好きになることは不思議なことではないということを知ってほしいと思う。
私たちの世界には、いろんな人が生きている。今、ようやく、みんながそれを知りはじめて、その上でみんなが生きやすい世界を目指しはじめたばかりなのだ。そのためにできることを探して、いろんな人が考えたり行動している。
この世界を、みんなが生きやすい世界に。
この思いを子どもたちに伝えていくことこそが、今おとなの私たちの使命なのではないか。
あらすじ
ある山の上のお城に、年をとった女王さまと若い王子さまが住んでいました。
女王さまは、長い間国を治めてきたので、もううんざりしていました。
そこで、王子を結婚させ跡を継いでもらおうと考えました。
結婚の話を持ちかけるも、王子さまはあまり気乗りしない様子です。女王さまは王子さまをようやく説得して、結婚相手にとお姫様を何人もお城に呼びました。
いろんな国のお姫様がお城にやってきましたが、王子さまにはなんだかしっくりきません。女王さまと王子さまは困ってしまいました。
そんな中、最後のお姫様が紹介されました。
そのお姫様には王子様が付き添っていたのです……
内容については
女王さまが引退をしたいので、息子の王子をどこかの姫と結婚させて王さまにして跡を継がせたい、という話の成り行きがあるのだが、結婚は必須条件なのだろうかと疑問に思った。
「この地方の王子さまはもうみんな結婚している、それなのにあなたは……」という女王の発言がどうにもちょっと引っかかる。結婚していて当然、という考えが感じられるのだが……それはLGBTをテーマにした絵本として大丈夫なのか?
女王さまは二回の結婚歴があるようだが、今まで一人で国を治めてきたのだし、結婚を強制せずに王子に跡を継がせるだけではだめな事情があるのだろうか。
もしかして跡取り問題?と思ったが、王子が男性を選んでも特になにもいわないあたり、それが問題というわけでもなさそうだ。
単に、息子の幸せを願って……なら、もうちょっと言いようがあった気もするのだが。
結局、王子はお姫様を選ばず、他の国の王子様に一目惚れし、幸せな結婚をする。出会ってから次のページで結婚式の場面になるので、童話にありがちな恋愛成就(または結婚)までの紆余曲折はない。
この絵本で描きたかったのは、見そめてからの結婚までに至る際の困難やトラブルなどではなく、同性を選んだことに対してだれも否定的なとらえ方をしない、それが自然なこととして祝福されるという世界だ。そこには、そんな世界が実現すればすばらしいという作者の思いが感じられるようである。
豪華絢爛な新郎と新郎の結婚式の場面は祝福にあふれ、みんなが幸せになって終わる。これがごく自然なことになったら、世界はどんなふうに優しくなっていることだろう。
個性的な絵柄と、コラージュで彩られた幸せな童話
絵柄も個性的だが、コラージュがアート的でおもしろい。
様々な質の紙が紙面を飾り、とても華やかだ。紙のほかにもひもなども使われている。
シンプルな話で分かりやすく、文章量も多くないので、読み聞かせにも向くだろう。テーマがはっきりしているので、読み聞かせにあたり、フォローを入れるといいだろう。