あらすじ
ある雨の日、濡れていた年とった猫を助けたエルマー。
空を飛んでみたい、というエルマーに、猫はこんな話をした。
昔、どうぶつ島というところに行ったとき、動物たちにとらえられ、奴隷のように扱われている竜の子どもを見た。助けようにも助けられず、悲しい思いをしたが、もしかしたら、その竜を助ければ、背中に乗せてもらって、空を飛べるかもしれない。
それを聞いたエルマーは、早速、その竜を助けることに決めた。
年とった猫の助言に従い、旅支度を整えた。
チューイングガム、棒つきキャンディ二ダース、輪ゴム一箱、黒いゴム長靴、磁石ひとつ、歯ブラシとチューブ入り歯磨き、虫眼鏡六つ、ジャックナイフひとつ、くしとヘアブラシ、リボン七本、大きな空の袋、きれいなきれを少しと食料。
それらをリュックサックに詰め込み、エルマーはこっそりと港を出帆する船に乗り込んだ。
そうして、彼は、まずはどうぶつ島の近くにある、みかん島を目指すのだった……。
長く愛読されてきた、少年エルマーの知恵と勇気の話
今なお、児童文学の不朽の名作として読みつがれている、『エルマーのぼうけん』。
読んだことがない人でも、黄色と空色のしましま模様の特徴的な竜には見覚えがあるかもしれない。
子ども時代、すごい柄の竜がでてきたな、と思ったものだ。一度見たら、なかなか忘れられないインパクトがある。
年とった猫から、恐ろしいどうぶつ島にはとらわれの竜がいると聞いたエルマーは、単身、竜を助けにいこうと思い立つ。優しさを秘めながらも、勇気ある少年だ。それに、頭も良い。ピンチに陥ってもあきらめることなく、知恵を働かせ切り抜けていく。
恐ろしい動物を前にしても、物怖じしない剛胆な性格も彼の魅力だ。ハラハラさせられることはあっても、エルマーならきっと何とか乗り越えてゆける、と安心感を覚えるほどだ。
何しろ、物語が本当に息もつかせぬ展開を見せてくれるので、おもしろすぎて困る。寝る前にちょっとだけ読もうと思って本を開いたのが運の尽き。なかなか切り上げることができなくて寝不足の羽目になった。
エルマーは少年なので、腕力ではとうてい、恐ろしい動物(ライオンやゴリラやサイなど)には勝てない。だから、代わりに賢い頭があるのだ。リュックサックに詰めてきた道具を、あの未来の猫型ロボットのように取り出しては、ピンチを切り抜けていく。おもしろい。
おおよそ冒険に必要なさそうなものをリュックサックに詰めた時点で、きっと何かに使うのだろうなあとは何となく予想できるのだが、その予想はいい意味で裏切られる。ご都合主義といえば、まあそうなのだけど、パズルの答えあわせと一緒で、このピンチにはこのアイテムを使う、というのがわかるのがおもしろいのだ。細かいことは抜きにして、エルマーの鮮やかな話術や奇抜な思いつきを楽しもうじゃないか。
かくして、エルマーは見事旅の目的を果たす。
いやあ本当におもしろさがぎゅっと詰まった一冊だった。最後はしてやったりの爽快感もおまけでついてきて、いい気分この上ない。
これは、確かに読みついでいきたくなる児童書のひとつだ。
やっぱり一作目が一番おもしろい
この本は続刊が出ているが、この生き生きとした展開のおもしろさは一作目が一番だと思う。
つまらないわけではないので、エルマーの冒険をさらに読んでみたいという人にはもちろん、おすすめする。誤解なきよう。
ただし、二作目はどうぶつ島から帰るところから始まるので、一作目を読んでいる方がいい。
文字の小ささと量からして、対象は小学校中学年から。
男女選ばない魅力的なお話だ。