あらすじ
フープ博士と、ロボットのランスロットの不思議な旅を断片的に切り取ったショートショート集。
各話につながりはほとんどなく、どの話からでも読める。
ファンタジーにSFが混ざりあった不思議な世界観が楽しめる。地球上のどこかの話のようなものもあるが、まったく違う世界の話のようなものもあり、まさに『夢の旅』である。
それは不思議な博士とロボットの旅
これはすべて、フープ博士とロボットのランスロットの旅の記憶である。
いうなれば覚え書きのような、メモ書きのような、情景を切り取った幻想的でロマンあふれた短い寓話が収録されている。
収録されている話にはつながりがほとんどなく、中には急に途中で書くのをやめたかのようなものがあったり、それから一体どうなったのかと尋ねたくなるような終わり方をするものもある。もっとも、本のタイトルからして、『夢の旅』であるから、このあいまいでつかみどころのない寓話も、幻想的な雰囲気を醸し出すのに一端を担っていると考えられなくもない。
話の内容はどこかほんのりと暖かく、また、幻想的で、まさに一夜限りの夢のようだ。「眠れる城」のような、メルヘンちっくで思わず笑んでしまいそうになる話から、「スノー・クリスタル」のような、短いながらも美しい情景が浮かぶようなほんのりと寂しくなる話もある。
博士とランスロットというキャラクターは、たむらしげる氏の世界の一部として、いろんな書籍に繰り返し登場している。世界観を構築するのに重要な一ピースとして、また、物語の道先案内人としての役割を帯びた大切な要素なのだろう。
この二人の会話は軽妙なときもあれば、ぜんぜんかみ合っていないように見えるときもある。何かの示唆に満ちているように見えるときもある。おそらくは作者とその作品という関係なのだろうが、その関係は限りなく対等で、まるで旧知の友のようだ。
飛び出してくるキーワードはどれもみな魅力的で、夢の旅を彩るにふさわしいものばかりだ。博士とランスロットとともに、まか不思議な旅に出る鍵ともいえるかもしれない。
「歩く家」、「カタツムリ・タクシー」、「タンポポ珈琲店」。ほんの少しのメルヘンと幻想が混ざりあって、優しい気持ちにさせてくれる。
私の好きな話は、「タンポポ珈琲店」と「おもちゃの国」。
「タンポポ珈琲店」は、巨大タンポポの森の中にある珈琲店の話で、しつこくタンポポ珈琲を勧めてくるウェイターもおかしみがあるが、なにより巨大タンポポの森の中にある珈琲店なんて、夢がある話ではないか。行けるものならば、行ってみたい。
「おもちゃの国」はさらにメルヘン色が強く、博士たちがブリキのタクシーに乗ることになり、その運転手が博士のある知り合いであった、という話だ。オチを書くと話の素敵さが半減してしまうので書かないが、これも何とも夢のある話だと思う。
挿し絵は豊富で、話ごとの扉絵と、各話に見開きで迫力のあるイラストが収録されている。ほかにも小さなカットがちりばめられており、目にも楽しい。
旅には夢と幻想が必要だ。
息苦しい毎日からほんの少し離れての休息。
博士とランスロットの不思議な旅が、今もまだ続いていることを願ってやまない。
挿し絵は豊富だが、おとな向けの内容
不思議な世界観とともに、情景が浮かんでくるかのようなこのショートショート集は、おとな向けに書かれたものだ。
うっすらと郷愁さえ覚える内容は、日常の疲れをほんのひととき和らげてくれるだろう。