12歳の誕生日を期に、少年は新たな世界の扉を開く。
あらすじ
アーチー・グリーンは祖母と二人暮らし。
彼の12歳の誕生日に、古い小包が届けられる。それは、イングランド最古の法律事務所が400年前から預かっていた小包だった。中身は封印を施された古い本。そして特別なメッセージが添えられていた。それには、オックスフォードにあるホワイト通り古書店に本を届けるようにということが書かれていた。
しかし、指定されていた日は昨日。期限はすぎてしまったが、アーチーは祖母のすすめもあって、オックスフォードの古書店に本を届けることになった。
そこで初めて、アーチーはオックスフォードに叔母であるロレッタとその家族が住んでいることを知る。
オックスフォードに着いたアーチーを、ロレッタの家族が暖かく迎え入れてくれた。祖母の手紙もあって、アーチーはロレッタの家族の元でしばらく生活することになった。ロレッタには娘と息子がいて、娘がキイチゴ、息子がアザミといった。
アーチーは、持参してきた本を古書店に持っていったが、渡すべき人物は行方不明だった。困っていた助手のマージョリーに、アーチーは手伝いを申し出る。すると、マージョリーは、傷んだ本を何冊かアーチーに渡し、これを地下にある右手の三番目のドアの部屋まで届けてほしいと頼む。
ランプを片手に、地下に続く螺旋階段を降りていくアーチー。果たして、右手の三番目の扉をあけると、そこにいたのは小柄なおじいさん、ゼブだった。ゼブは、アーチーに向かって、「おまえは炎を渡してもいい者かね」と尋ねてくる。ゼブじいさんはアーチーの両手を確認し、突然、部屋にあった炉から炎を取り出すと、積まれていた本に向かって炎を投げつけた。アーチーはあわてて、その炎を手で受け止め……。
まずタイトルに引きつけられる一冊
図書館好きならとても魅力的なタイトルのこの本。タイトル以外にも、図書館好きの胸ときめかす要素があちこちにちりばめられている。古い本、禁断の書、魔法、幻獣、壁を埋め尽くす本棚。ファンタジー好きも引きつけてやまないだろう。
主人公のアーチー・グリーンは、12歳の誕生日に400年前からの小包を受け取る。これだけで話の続きが気になってくる。小包の中身が封印された古書ならなおさら、興味はつきない。一体、400年前に、アーチーに小包を送ったのは誰か? 封印された古書の中には、一体何が書かれているのか? しかも、その小包には手紙がつけられていて、その手紙は魔術師や錬金術師が使う言葉、「マジ語」で書かれているという。
魔術師! 錬金術師! そんな世界と無縁の毎日を送っていたアーチーは戸惑いながらも、運命に巻き込まれていく。何か事情を知っているらしい祖母は詳しく説明することなく、アーチーをオックスフォードに送り出し、そこでアーチーは親戚のフォックス一家のもとに身を寄せるのだった。新たな出会いと、「魔法図書館」での新たな役目……魔法の本の修繕。
何も知らなかった少年アーチーとともに、読者は世界の裏側でひっそりと繰り広げられていた魔法や幻獣の世界を見聞きし、体験していく。魔法の世界には連綿と語り継がれている歴史があった。それはあまりにも重厚な歴史で、もしかしたら現実に存在しているのではないかと思ってしまう。
魔法の世界を想像するのも楽しいが、アーチーが自分の秘められた力を発揮していくところも見物だ。最終的に魔法書界の運命を左右する事件に巻き込まれていくという、スケールの大きさ。本から幻獣が飛び出したり、本がささやいたり、中盤から終盤にかけての盛り上がりにはぐいぐいと引き込まれる。
アーチーやいとこのキイチゴやアザミが、子どもなりに事件解決に乗り出していくところにははらはらさせられる。謎解きもあって、物語の展開に目が離せない。これは本好き、魔法好き、図書館好きのためのファンタジー小説だろう。
物語は始まったばかり。この一冊でも大まかな話は完結するが、主人公アーチーの秘められた過去や、魔法図書館の歴史の奥深さはつまびらかにされていない。続編も出ているので、魔法図書館の世界にどっぷり浸れる。
海外文学の特徴といえばそうだが、登場人物が多いので把握するまでに時間がかかる。余談だがアザミは男の子。日本では女の子につけられる名前なだけに最初男勝りな女の子なのかと思っていた。登場人物が多い中で、個性的なのがロレッタ叔母さん。ケーキにイワシ(もちろん魚のイワシ)を入れるそのセンス、あまりにもすごい。
図書館好きなら夢がある
図書館好きなら、夢のある設定にストーリーだと思う。こまごまとしたアイテムや設定も興味をそそる。
文章の密度が高く、読みごたえは抜群。そのぶん、ストーリーもしっかりしている。ただ文章を読むことにある程度慣れていないと読破するのにかなり時間がかかりそう。挿し絵は時々ある程度。
対象は小学校高学年からだろう。