おいしいケーキを作っていたコーラ・リー。
彼女は死んでもなお、幽霊となって店にとりつき……。
あらすじ!
コーラ・リー・メリウェザーは腕のいいケーキ屋さん。
彼女の作るケーキはみんなが大好きでした。
そんな彼女が亡くなったとき、もう彼女のケーキが食べられないのかと町のみんなが泣いたほどです。
彼女亡き後、彼女のお店は、売りに出されました。
しかし、コーラ・リーは幽霊となって、お店にとりついていたのです。お店を買って、新しくケーキ屋さんを開こうとする職人を、コーラ・リーは怒鳴りつけたり作業の邪魔をしたりして、追い出し続けました。
かくして、コーラ・リーのお店は買い手がいなくなってしまいました。
ある日のこと、大きな船の中でデザートを作るシェフとして働いていた、アニー・ワシントンがコーラ・リーのお店を買い取りました。
待ち構えていたように、アニーを追い出しにかかるコーラ・リー。
負けないアニー。
アニーはどうすれば出て行ってくれるのか、コーラ・リーに尋ねました。
すると、コーラ・リーはこう言いました。
「わたしにケーキを作っておくれ。むねがいっぱいになって、なみだがこぼれるほどすばらしいケーキ。わたしなら作れるけど、今までだれも、わたしには作ってくれなかったケーキをね」
さあ、アニーの奮闘が始まります。
生き生きしたキャラクターで展開するお話
こういう、お菓子やケーキを題材にしたお話って大好きで、タイトルに入っているとつい手にとってしまいます。
この『ケーキやさんのゆうれい』、もうこれでもかっていうぐらいケーキや、焼き菓子の名前が出てきます。
シュトルーデル、カンノーロ、バーブカ、ブントケーキ……聞いたことのないお菓子の名前がいっぱい出てきて、ついネットで検索してみたり、検索結果で出てきた画像を見て、私も食べてみたい!と思ったり(作ってみたい!とならないところが……私らしい)、話の内容も面白かったんですが、そういった意味でも楽しませてもらいました。
コーラ・リーの気難しいっぷりは見事に描かれているし、アニー・ワシントンのくじけない心には感心するし、生き生きしたキャラクターのやりとりがお話の中央にしっかりと置かれてあって、ぶれない。キャラクターが魅力的な話っていうのは、それだけで訴求力がある。
アニーの前向きなところ、芯の強さが本当に素敵です。
コーラ・リーの求めていたケーキが何か知ったときの、ああそうか、と腑に落ちるの、彼女のお葬式でみんなが泣いたのが「彼女の作ったケーキがもう食べられないから」という、だれも彼女自身を見てなかったんだなって描かれ方をしてるからなんですね。
彼女は確かに天才的なケーキ屋さんだったけど、ショーケースの後ろに立つ彼女の顔なんか誰も見てなかった。それってとても切ないというか、悲しいというか……コーラ・リーがオバケになっちゃったのも、分かるような気がします。
そんなコーラ・リーとアニーが出会ったのは本当に幸運だった。
コーラ・リーの幽霊を怖がることもなく、恐れることもなく、きちんと筋を通して挨拶をし、へりくだることもなくやりとりできた時点で、コーラ・リーとアニーは対等な立場から関係をはじめることができたんですね。それってとても理想的な関係かも。
アニーとコーラ・リーの関係は本当にかけがえのないものになったな、って思います。
コーラ・リーにとって、アニーははじめての友人になったのではないかしら。
これからも二人で言いたいことを言い合って、おいしいケーキを焼いていってね。
文章量が少し多いので、読み終えるのに集中力が必要かも
ややもすればアート寄りな絵柄と児童書並みの文字量で、読み終えるのに少し集中力を要します。一度で全部読み聞かせするには長すぎる内容です。
話も素敵ですし、絵もマッチしているのですが、絵柄がちょっと渋めなので好みが分かれるかもしれません。
文章を読むのに慣れた小学校中学年から上が楽しめる絵本でしょう。
もちろん、ケーキが好きな大人も楽しめます。
著者紹介に、ケーキについて言及しているところが茶目っ気があっておしゃれ。
こういうおしゃれな感じっていいなと思います。