絵本の森

もしかしたらすぐそばにいるかもしれない──『くうきにんげん』

この世には「くうきにんげん」がいる……

 

誰にも気付かれない、「くうきにんげん」

くうきにんげんを しってるかい?
 しってるかい?

この世には、「くうきにんげん」が世界中に大勢いるのです。
誰もいないかのように目に見えなくて、誰にも気付かれず、小さな穴や隙間があったら入っていける、「くうきにんげん」。

「くうきにんげん」は「ふつうのにんげん」に襲い掛かって、空気にかえてしまうのだそうです。くうきに変えられた人は、目に見えなくなり、誰にも気付いてもらえなくなります。それはつまり、この世から消えてしまうのと同じです。

「くうきにんげん」は必ず、二人がかりで「ふつうのにんげん」を襲います。
人を空気に変えるためには、「くうきにんげん」二人の力が必要なのです。

ほら、「くうきにんげん」はすぐそこに……

 

「くうきにんげん」という言葉を考えるとき

獣頭の世界のうさぎの少女の生活を垣間見ながら、「くうきにんげん」とは何か、何をするのかということを話し口調で教えてくれる「誰か」。

うさぎの少女に語りかけているわけではないのは、作中で分かります。
そう、語りかけている相手は、「このほんをよんでいる」あなたなのです。

最後、ゆれるカーテンを見て、うさぎの少女の結末はなんとなく想像がつきます。
もしかしたら、という恐怖。
思わず自分のまわりを見回してしまいます。

冒頭、うさぎの少女が読んでいる本に注目すると、恐怖が更に募ります。つまり、「このほんをよんでいる」わたしは……?

 

絵がとても美しく、うさぎの少女のつぶらな目は表情の乏しさもあいまって何を語りかけてくるかのようです。

しかし、なぜ、この世界は獣頭の者しかいないのか……?
ところどころ見られる鏡文字は何を表しているのか……?
冒頭の本の絵は、単なる読者サービスととらえていいのか……?
解釈の余地を残して、お話は終わります。

 

「くうきにんげん」。

考えてみれば、いろんな意味が含まれているような気がしませんか。
誰にも見えず、誰にも気付かれない、空気人間。

 

「くうきにんげん」の正体はもしかしたら……。

 

物語そのままを捉えれば、分かりやすい怖い話ではある

文面と絵をそのまま捉えれば、「くうきにんげん」という怖いものの話になります。お話というより、語りのような展開を見せるので、強烈に怖い話といった内容ではありません。読み聞かせて怖がるのは小学校低学年ぐらいまででしょう。絵も綺麗で衝撃的な構図もないので、あっさりと受け取られそうです。

考察の余地がある話なので、おとなはまた違った見方ができる本かもしれません。
そういった意味では楽しめる一冊ではありますが、強烈な怖さを求める場合にはこの本は適していません。

 

 

 

……なんて書いている私の後ろにも、くうきにんげんがいるかもしれませんね……。