絵本の森

日常生活でよく見かけるからこそ──『かがみのなか』

思えば鏡というものはいろんなところにあるとは思いませんか。
鏡に映るのは、もちろんわたし……?

鏡という不思議なもの

鏡はいろんなところにあります。お店の中にも、街角にもいっぱいあります。学校でも必ず鏡があります。
鏡を見ない日はありません。

鏡はそのままを写すもの。
鏡の前で右手をあげれば、鏡の中の自分は左手をあげ、左手をあげれば右手をあげ……当然ですよね……?

 

 

当然ですよね……?

 

 

そこは鏡の世界

思わずハッとされられる場面から、一転、鏡の世界が本気を出します。

使い古された、といえばそうなのですが、本書は、鏡の中に引きずり込まれるという恐怖が描かれています。「蝶」がこの作品ではキー。「蝶」が鏡の中の世界にいざなってくれるのです。

鏡の中では、実体と虚像が楽しく過ごしている世界。
恐ろしい事は何も起きません。怖いものも何も登場しません。いるのは、自分の虚像だけ……。

鏡を見るとき、なんともいえない不思議な気持ちになったことはありませんか。ただそのままを写しているだけなのに、鏡の向こうにあべこべの世界が広がっているような……。
自分の顔なのに、他の誰かを見ているような……。

鏡の中に引きずり込まれる、という恐怖はおとなになった今でも払拭しきれずに残っているような気がします。

 

 

結末、「ただいま」と帰ってきたのは……?

 

 

じんわりとくるタイプの怖さ

本書にはも恐ろしい姿をしたオバケも、おどろおどろしい妖怪も出てきません。
あくまで日常的によく見る鏡にまつわる生理的な恐怖を、淡々とした文章と圧倒的なイラストで語る絵本です。

イラストはページが進むにつれ、恐ろしげになっていきますが、注意深く見ていないと話がよくわかりません。読み聞かせにはあまり向いていないでしょう。

小学校低学年にはあまり向いていないように思います。中学年以上からが対象でしょう。

いわゆる怖い話に分類される本ではありますが、幽霊が出てくるなどといった分かりやすいタイプの怖い話ではありません。人が日常、潜在的に抱いている恐怖に訴えかけてくるタイプの怖い話です。幽霊、オバケの怖い話を期待して読むと、肩透かしを食らうかも。